日常生活の快適さと健康に不可欠なトイレは「文化」
私は、慶應義塾大学大学院博士課程で学んでいた時に、教員を志すようになりました。
大学教員になるためには教職課程を履修して教員免許を取得する必要はありませんが、将来大学教員になれるにしてもなれないにしても、教員を志す以上、教職課程を履修して、中学校及び高等学校の社会科の教員免許を取得しようと決意して、学部の3・4年時に開講されている教職課程を履修しました。
その過程で履修した教科に【人文地理学】があります。
担当教員はユーモアあふれる授業で学生に大人気の西岡秀雄教授でした。
西岡先生は、ある授業の日には、世界各国のトイレットペーパーをたくさん持参され、それを示しながら『トイレとは国や民族や時代によって異なる、まさに人間の暮らしに係わる極めて文化的なものである』ということについて力説されました。
教授は1980年に東京都功労者に認定され、そのご著書には『トイレットペーパーの文化誌 人糞地理学入門』論創社 文化誌講座 1988年、というユニークなタイトルの本があります。
私には、学生時代に人文地理学の視点でトイレについて学んだことが、その後大学教員となった時には学生担当として、トイレの清潔と防犯について取り組んだ契機となっています。
私は平成15(2003)年に市長に就任以降も、トイレには一貫して注目して取り組んできました。
たとえば、市役所本庁舎にオストメイトの方もご利用いただける「誰でもトイレ」を就任直後に整備しました。
また、コミュニティ・センターや地区公会堂及び公園などの公共施設の改修を進める過程で、特に公共施設のトイレの洋式化を進めました。
そして、公園のトイレについては、防犯のために通りから見える場所に移し、だれでもトイレとして整備するように努めました。
さらに注力したのは、学校のトイレの洋式化です。
たとえば、最近では、平成30(2018)年10月10日に、「全国公立学校施設整備期成会」の市町村長の一人として、学校施設の耐震化、施設整備の予算措置に関する要望書を柴山文部科学大臣及び菅官房長官を訪問して提出しました。
柴山大臣は大臣にご就任直後でしたが、大臣室で私たちを迎えてくださいました。
そして私たちとテーブルに着席して時間をとって要望を聞いてくださいました。
昨年は大阪北部地震のブロック塀の倒壊で尊い児童の命が失われた事件もありブロック塀の改修は重要な施策となっていました。
また、最近の猛暑への対応としてエアコン整備の補助金増額がメインの要望となっていました。
これらはもちろん重要な政策課題ですが、私は、同様に学校トイレの洋式化が重要施策と認識していました。
そこで、
「柴山大臣、学校施設の整備においてトイレの洋式化も必須の課題です。幼児が小学校に入学した時に、学校トイレが自宅とは異なる和式トイレであることで、学校生活への適応に支障がもたらされることもあります。ある場合には不登校の要因になるかもしれません。たかがトイレ、されどトイレで、トイレは心身の健康の基盤です。ぜひ、トイレの改修の予算増額もお願いします」
と、このような趣旨の発言をしました。
大臣は、
「優先順位としては学校耐震化やエアコン整備が高いと言えますが、トイレのことも念頭におきます」
とおっしゃってくださいました。
今振り返りますと、大臣室でトイレの話をした珍しい市長だったかもしれません。
その後も、文部科学省の施設助成課には折々に陳情に訪問して、当初は学校エアコン整備補助金の要望、最近では学校トイレ洋式化補助金の要望を継続しました。
そして、平成30年度の学校施設整備の補正予算は幸いにも従来以上に増額され、三鷹市では学校トイレ改修に活用する補正予算を提案することができました。
さて、7月20日21日に開催された【三鷹産業プラザまるごと夏まつり2019】の会場である三鷹産業プラザの7階を訪ねた時に、産業プラザを運営する株式会社まちづくり三鷹の社員から案内されたのが、リニューアルされたばかりのトイレでした。
私は三鷹市長在任中に、当時の副市長であり、株式会社まちづくり三鷹の代表取締役会長であった内田治さんに、三鷹市が最大の株主であったこともあり、市民を代表してトイレの件について問題提起をしたことがありました。
すなわち、私は、
「産業プラザのトイレの設備が老朽化しています。会長は男性なので入ることがないからわからないと思うけれど、特に女子トイレのドアのカギの具合がよくないところがあり、洗面所も水道の使い勝手が悪いので点検して改善を検討してほしい」
と申したのです。
そんなこともきっかけの一つになったのか、社内では計画的なトイレ改善が始まり、まずは多数の団体の皆様にご利用いただいている利用頻度が高い会議室のある7階のトイレの改修に着手され、その完成を担当者が私に伝えていただいたと拝察します。
トイレ改修担当の社員に案内していただくと、7階の女子トイレは全ての個室に着替えコーナーがあり、ベビーベッドが一台、ベビーチェアが二台と、子育て世代の利用の際に便利になっています。
加えて、パウダールームには衣服やバッグ等を掛けるフックもあり、大きな鏡でお化粧直しにも使いやすい造りとなっています。
女子トイレのパウダーブースにはカバン等を掛けるフックが整備されている
大きなミラーと清潔な洗面台
3つの個室にはどれも着替えコーナーとベビーチェアが設置
一番大きな個室にはベビーベッドも
普段は決して入ることができない男子トイレについても、社員の方が案内しますからぜひと言っていただいて、特別に見せていただきました。
すると、女子トイレだけでなく男子トイレにもベビーベッド・ベビーチェア・着替えコーナーが設置されています。
実は、市長在任中に子育て中のお父さんと対話することも多かった私は、父親が一人で子ども連れの時に男子トイレはおむつの交換場所もなくて不自由であるとの声を聞いていました。
そこで、男子トイレに赤ちゃんのおむつ替えのスペースがあることは、適切なリニューアルであると評価します。
さらに、多目的トイレにはオストメイトの設備もあり、文字通り「だれでもトイレ」と言えます。
現代は男性も女性と共に子育てに取り組む時代であり、長寿化ととともに、外からは見えにくい障がいのある方も増えています。したがって、産業プラザ7階のトイレは、多世代の多様な皆様が使用する公共施設のトイレとして、適切に生まれ変わったものと感じました。
今後も、産業プラザのみならず、三鷹市内の他の公共施設でも、トイレ整備を継続して重視し、推進していただくことを願います。
たかがトイレ、されどトイレであり、トイレは心身の健康の基盤の機能を果たす、大切な人間の文化の一つと考えます。