石井宏子君津市長との対話から考える~台風15号で被害を受けた千葉県君津市を訪問~
10月1日(火)、9月9日の台風15号で長期停電を含む大きな被害を受けた千葉県君津市役所に石井宏子市長を訪問し、お見舞を申し上げるとともに、君津市の復興に向けて心ばかりの寄付を手渡させていただきました。
石井市長には災害対策に未だご多用の中、貴重なお時間を割いていただき、今回の災害対策のご体験を直接伺い、市役所内を見学させていただくことによって、地域の災害対策に関するご示唆をいただきましたので、皆様と共有させていただきます。
君津市の概況
千葉県君津市は、面積は318.8 km2と、16.42km2の三鷹市の約19倍の広さです。
8月1日現在の人口は84,198人です。(三鷹市は188,152人)
房総半島のほぼ中央部に位置し、東京湾に面した北東部には、世界に誇る新日鉄住金の製鉄所があります。
区画された市街地が広がり、東京湾アクアラインを使った都心へのアクセスが容易で、東京駅には高速バスが運行されています。
今回私は、JR総武線から内房線につながる君津行の電車で行きました。
五井駅を過ぎると、沿線に急にブルーシートで保護をしている住宅が増えました。
君津駅を降りると、マザー牧場行きのバスの案内もあり、房総丘陵の豊かな自然に恵まれ、四季折々のレジャーや観光にも多くの人を惹きつけている市です。
君津市の被害と直後の対応の状況
2019年9月9日早朝に上陸した台風15号の被害は明け方より明るみになり、市内の送電設備のうち約50メートルの高さの鉄塔2本が倒れることもあり、広範囲に停電が発生しました。
2019年9月9日18時時点で、市内全域の約37,700世帯で停電状況となったということです。
2019年8月1日現在の世帯数は39,001世帯ということですから、9割以上のほとんどの世帯が停電とのことでした。
当時は、10日には停電が復旧するとの電力会社からの情報があり、市ではその見込みを信頼していたのことでしたが、9月10日の時点でも、停電約37,700世帯は変わらず、むしろ、倒木や土砂崩れ箇所(道路通行止め含む) 256か所、建物被害128件、負傷者9名(負傷者数等は9月10日16時現在)と、被害は拡大する状況となりました。
君津市のホームページのトップページ(https://www.city.kimitsu.lg.jp/)
そこで、停電に伴う市民の安全安心確保のために避難所(周西公民館、八重原公民館、周南公民館、小糸公民館、清和公民館、小櫃公民館、上総地域交流センター)を設置し、飲料水と非常食を配布し、特別避難所=生涯学習交流センター(妊産婦、乳幼児等のご家族を優先)を設置されました。
さらに、携帯電話の充電のニーズに対応するために、関係企業の協力により本庁舎で対応されたとのことです。
また、石井市長は、「近所に要配慮者の方がいないか、困っている人がいないか声を掛け合い、熱中症対策として、どうぞ十分な水分補給を心がけてください」と市民に呼びかけられました。
特に、停電の中で車中泊をされる方も多くいらしたことから、2日続けて車中泊をされる方は、「軽い運動を心がけ、エコノミークラス症候群にも留意を」と発信されました。
2019年9月10日には、直ちに、災害時応援協定に伴う支援として、埼玉県白岡市からブルーシート等の提供、(有)福田水道によるウォーターサーバーの設置等、NPO法人クライシスマッパーズ・ジャパンによる無人航空機による撮影被災状況の提供があったとのことです。
このNPO法人とは三鷹市も協定を交わしています。
石井市長は停電の被害は鉄塔が倒れたことによると当初は認識されていたようですが、実際には山間部の多数の倒木等の被害によるものもあることを、こうした調査等から再確認されたようです。
停電により、電話もつながらない状況もあり、市民の皆様の被害状況を把握しにくいこととなり、こうした際には、上空からの映像による把握が有用と推察します。
そして、9月11日を迎えて、石井市長は次のように市民にメッセージを出さなければならなくなりました。
すなわち、
「本日、君津市内の大部分で続いている停電について、夕方の東京電力の会見を受け、長期戦になることが判明いたしました。市に多くの市民の皆様から問合せがある中、未だ多くの地域において復旧の見通しが立っていないということは、誠に遺憾であり、市では、再度、体制の整備・調整に向けて、関係機関等への支援を要請しているところでございます」
と。
そこで、11日には、自治会の協力を得ながら職員が要支援者を個別に訪問し、安否確認等を実施し、女性警察官による避難者の心のケアや声掛けなどが行われました。
ブルーシートの配布も毎日1,000枚以上なされていきました。
その後、順次停電が解消され、9月23日にはすべての避難所を閉鎖し、停電による断水のため市内各所で行っていた給水活動は、9月25日(水)をもって支援が終了しました。
また、練馬駐屯地の陸上自衛隊第一後方支援連隊は、25日まで君津市の清和公民館で、停電や断水でお風呂に入れない被災者向けに簡易風呂による入浴支援を行い、約2000人が利用したということです。
三鷹市の防災訓練で、自衛隊の皆様の入浴支援の実物展示をしていただいたこともありますが、被災地における入浴の重要性も再確認できました。
石井宏子君津市長との対話
私は三鷹市長在職当時、全国市長会の副会長として会長の特命で子ども子育て支援施策を担当するとともに、平成29年度には「女性市長による未来に向けた政策懇談会」の座長として、女性市長の皆様と政策に関する交流を深めてきました。
さらに、平成30年度には、全国市長会に設置された防災対策特別委員会の委員を務め、平成30年7月7日に発災した7月豪雨の際には、倉敷市に支援物資を送り、15日には倉敷市、総社市に義援金を持参して激励に伺いました。
さらに、岡山県高梁市、総社市には職員も長期に派遣しましたので、今回の台風15号による千葉県の停電をはじめとする大きな被害には心を寄せてきました。
しかしながら、現職の市長ではないことから、激励であれ被災直後に伺うのはご迷惑と考えて、激励に伺うべき時機を考えていました。
君津市の石井宏子市長とは面識はありませんでしたが、昨年の11月1日に市長に就任されて1年足らずで直面された、台風による想定外の長期の停電を含む災害対策に対応されるお姿を報道等で拝見して、市長の経験者としてぜひ直接お目にかかりたいとご連絡をしました。
そして、10月1日午前11時から面談のお時間を頂くことになり、君津市役所を訪問したというわけです。
石井市長は、集中的な災害対策のお疲れの様子も見られず、お元気に颯爽と姿を現されました。
心ばかりの君津市の災害対策への寄付金と、元気を出していただこうと、三鷹の森ジブリ美術館で購入したクッキーとハンカチーフを差し上げました。
すると、石井市長は三鷹の森ジブリ美術館のショップである「MAMMA AIUTO!」の袋をご覧になって、
「私は実は『紅の豚』の映画が大好きなんですよ」
と笑顔で言っていただきました。
お時間のない中でしたが、災害対策の状況について生の声を伺ったところ、石井市長は、ほぼ全市にわたる停電については、当初は翌日の10日には回復するとの電力会社からの見通しを信じて対応していたそうです。
ところが、11日の時点で、急きょ長期間復旧しないとの情報を得て、真剣に長期対応を覚悟した時の若干の当惑と、市民の皆様の為に頑張りたい気持ちを強く持ち直すという複雑な想いを語ってくださいました。
停電は、電力を使用する水道等のみでなく、電話等の情報の流通にも大きな影響をもたらし、市が当初において、正確な被災状況を把握できない困難に直面したとのことです。
加えて、住宅の被害は屋根の部分が多く限定的な傾向があり、在宅で避難する方が多かったので、避難所に来られる方が少ないこともあり、支援の具体的なニーズについて把握することが困難であったとのことです。
被災状況が正確に把握できなければ、対応についても即応が困難になります。
停電時における正確な被害状況の把握を可能とする情報入手・伝達手段の確保については大きな課題であることが認識されます。
そして、残念なことに、君津市では水害等での直接的な死者はゼロのところ、ブルーシートを屋根にかける際に転落して亡くなった方や、熱中症で亡くなった方がいらしたことに、石井市長は胸を痛めておられました。
現時点では、ブルーシートの対応については専門の協力事業者に依頼しているとのことですが、今回の災害時では、他市でもブルーシートを活用する際の死者や負傷者が多くいらしたことが報道されていることから、ブルーシートは配布することだけでは不十分であり、それを安全に活用することができる専門的なボランティアの確保などが今後の課題であると考えます。
石井市長は市長に就任して以降、現在ちょうど地域防災計画の改定を進めている時期であり、今回の経験から、たとえば本庁舎だけでなく、その他の公共施設における発電機の確保の在り方について検討していきたいとおっしゃいました。
また、農業の被害も大きく、停電の為に養鶏場の鶏が死亡したり、農業設備が被害を受けたりしていることから、営農の継続をあきらめる農家が出てきていることも大きな課題と思います。
停電が解消されても、り災証明の発行など、市役所が取り組むべき課題は多くあります。
君津市役所では、り災証明の発行業務を、東京都の職員と港区の職員が支援していました。
市役所のガラスには、支援を受けた自治体等の名前が掲示されています。
そして、市民向けの情報も壁新聞のように掲示されていました。
石井市長はこの間、市長に就任1年未満で大きな災害に直面し、「災害対策本部長」としての責任を果たされています。
「実は反省すべきことばかりです。」と謙虚におっしゃっています。
市長は、「新人だから」とか「初心者だから」などという言い訳はできません。
私は大学教員を経て50代で三鷹市長となりましたが、三鷹市長に就任直後に日中の集中豪雨の被害に直面したり、2年目には床上床下浸水200世帯以上の被害が発生した時間105ミリの豪雨に対応しました。
未経験の人間であっても、市長に就任した日から直ちに市民の皆様の生命・身体・財産を守るのが使命です。
石井市長は、この災害対策において、警察・消防・消防団はもちろんのこと、災害時の協定を交わしている関係団体、全国市長会、連携自治体等との連携の意義と必要性を痛感されたとのことです。
加えて、今まで対話する機会がなかった若い職員とも対話する機会を得て、市長として市民の皆様、職員の皆様との信頼関係が強化されたと感じると話されていました。
石井市長が、市民の皆様、市議会の皆様、職員の皆様と、この災害を着実に乗り越えていただくことを、心から願いたいと思います。
なお、君津市では、9月15日には任期満了に伴う市議選が告示され、22日が投票日であったとのことです。
報道で示された市選挙管理委員会の情報によると、台風で市議選のポスター掲示場205カ所のうち85カ所が壊れ、期日前投票所も15日時点で電気が通じていないところがあったとのことです。
任期を特例で延長できない状況の中、選挙に臨まれた市議会議員候補の皆様のご苦労、選挙事務を遂行された選挙管理委員会の皆様のご苦労はいかばかりかと拝察いたします。
今後、石井市長はじめ市職員の皆様、新たに選挙で選ばれた市議会議員の皆様のご活躍によって、市民の皆様の生活の復興と今後の災害に強いまちづくりの発展を心から願いつつ、緊急時にも関わらず私を受け入れてくださった石井市長はじめ君津市の皆様に感謝して、君津市を後にしました。