「鈴木敏夫とジブリ展」から再確認した言葉と文字の力
5月7日、平成から令和への移行時の10連休明けの日に、神田明神文化交流館内の神田明神ホールで開催中の「鈴木敏夫とジブリ展」を訪問しました。
連休中は大混雑との報道があり連休明けに来館しましたが、入り口には大行列ができており、館内も多世代の来館者で混雑していました。
鈴木敏夫さんは、申すまでもなく多くのジブリ作品を制作されたスタジオジブリの代表取締役プロデューサーです。
この展覧会は、鈴木さんの言葉と鈴木さんによる書画を通して、スタジオジブリの数多くの作品の魅力や制作過程を再認識し、趣向を変えてジブリの作品を楽しむように展示されています。
この展覧会を通して、鈴木さんは、宮崎駿監督や高畑勲監督のアニメーション映画の製作責任者として加わるだけでなく、作品の広報のためのキャッチコピーを考案されたり、実際にポスターに題字や説明の文字を書かれることで、作品の魅力やメッセージを伝える過程でも大活躍をされていたことがわかりました。
鈴木さんは、宮崎駿監督と会われる前は、人とお話をされるときにメモ代わりに絵を描くことが多かったそうですが、同様にメモ代わりに絵を描かれる宮崎監督と出会われてからは、絵ではなく文字で、それも筆で書として書かれることが多くなられたとのことです。
その文字と書が溢れた展覧会場には3か所のみ撮影を許可された場所があり、その一つは、『千と千尋の神隠し』に登場した湯屋「油屋」の湯婆婆の部屋でした。
その部屋で、60代の私ですので止せばよかったのに、若い皆さんの動作につられて、ついつい「恋愛おみくじ」を引きましたら、なんと「大凶」でした。
そこで、鈴木さんが書かれた「令和」の文字の前で「大凶」なのは恋愛運だけにしていただこうと記念写真を撮りました。
そのおみくじには「どうにもならないことはどうにもならん。どうにかなることはどうにかなる。」と鈴木さんの文字がくっきりと書かれています。
まさに、その通りです。
観覧した後で、角川書店から刊行されているこの展覧会の公式読本『人生は単なる空騒ぎ―言葉の魔法―』という本を求めましたら、巻頭に「人は言葉でモノを考える。言葉で考えを組み立てる。声に出すと、考えが自分の作った言葉に支配される。言葉はかく面白い。」と鈴木さんの個性あふれる文字で書かれていました。
私は大学で教員として、研究者として仕事をしていたとき、「言語は思考を規定する」ことを痛感してきました。
日本語で思考するとき、外国語の論文を読みながら思考するとき、言語、言葉、語彙は、まさに人の考え方に影響をもたらすものであり、真実や真理を究明しようとするとき、どの用語を選ぶか、何を根拠に推論し、証拠に基づいて結論付けるかに時間をかけ、その内容に責任を持つように心がけてきました。
研究者としての倫理の重要性を痛感してきました。
市長としても、公約(マニフェスト)に何をどのように行うかを示すときに、市民の皆様にわかりやすい言葉を選び、実現可能性の根拠を持ちながら説明することを心掛けてきました。
公約は文字通り「公」に向けての約束であり、公表するということは実現するという責任の重大さを痛感し、市長としての倫理が求められていると痛感してきました。
「声に出すと、考えが自分の言葉に支配される」とのプロデューサーの鈴木さんの視点は、痛烈だと感じています。