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第39回太宰治賞の贈呈式に参加しました

第39回太宰治賞の贈呈式に参加しました

第39回太宰治賞(株式会社筑摩書房・三鷹市主催)の贈呈式・受賞パーティーに参加しました。
応募作品1,246篇のうちの4篇の最終候補作から選ばれた受賞作は西村亨(にしむら・りょう)さんの『自分以外全員他人』でした。

ホームページで紹介されている概要では、

あと1年半、あと1年半待てば俺は自殺できる……。マッサージ業界でフリーランスとして働く柳田譲。不安定な日々を過ごし、生きる支えも希望もなく、45歳が限界だと思っていた男は自らに死亡保険をかけ、自殺でも保険金が下りるようになる日を待っていた。人とうまく関係を築くことができず、母とも母の再婚相手とも分かり合うことはないまま家を出て、職場の同僚や客ともおおよそ心地の良い会話はできない(中略)。極めつけは入居しているマンションの駐輪場での置き場所トラブル。自分の魂そのものになった自転車を屋根付きの駐輪場に止めたい、それだけだったのに、自分はなにも悪いことをしていないはずなのに。日常が怒りに染まっていく中年の破滅の物語。

ということです。
西村さんの受賞者としての挨拶を要約すると次のようです。

3月の初めまではどこかで野垂れ死にしようかと生きていた自分が、受賞して、さらに出版に向けて作業をしているうちに死ぬ気も完全に消滅しました。すぐには嬉しさは沸いてこなかったけれども、ホームページの選考委員の選評を見て本当に嬉しく思った。特に、津村記久子先生のコメント【多くの人が共感し、救われるのではないかと感じた。】にぐっとこみ上げるものがありました。
自分自身は小説に救われて生きてきた人間なので、そうなれば本当に嬉しい。
18歳の時に初めて出会った太宰治の「人間失格」の衝撃は覚えている。初めて自分と同じ人間に出会えたような気持ち、それがなかったら、自分らしく生きられなかった。
生きるのが下手で40過ぎてからも人間失格を録音してそれを聴きながらどうにか外を歩いてきた時期があった。生きるのが下手で、何もうまくできない。太宰治が自分の恥をさらけだしてくれたから、生きてこられた。自分は誰かの恥が誰かの心の支えになることを身を持て知っているので、これからも書いていきたい。これまで死ぬほど恥をかいてきて、それこそもう少しで本当に死ぬところだったので、ぎりぎりのところで救われた恥の多い人生の、できるならこれから誰かの慰めや救いの為に生きていけたらこんなに嬉しいことはない。

贈呈式には、選考委員の荒川洋治さん、奥泉光さん、中島京子さん、津村記久子さんが揃って出席さえていました。
代表して、津村記久子さんは次のように講評をされました。

選考会では、作品ごとに選考委員の発言の順番を変えることになっており、受賞作品については私が最初に意見をいう役割となり、少し、緊張しながら話しました。候補作の4作品はどれもよかったが、受賞作に抜群に共感しました。特に、自転車置き場に関する不安がとてもリアルでした。身につまされる内容。生活の苛立ちの細部を描けており、多くの人が共感し、救われるのではないかと感じました。

津村さんは選考委員になって5年目です。
津村さんは、私が三鷹市長に就任して3年目の2005年「マンイーター(後に「君は永遠にそいつらより若い」と改題」で第21回太宰治賞受賞しました。その後、たびたび芥川賞候補となり、2009年に 「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞を受賞しました。その際には、津村さんのご厚意で、私も授賞式に参画することができました。新人文学賞である太宰治賞の受賞者が芥川賞を受賞されたことは本当に大きな喜びでした。
その日は、お久しぶりに対面して、選考してくださったことに感謝し少し会話することができました。私は読書家ではないので、文学のお話ではない話題で終始しましたが。

また、主催者の一人である、(株)筑摩書房の喜入冬子社長は、挨拶の中で、「1996年以降右肩下がりの本の売り上げ、コロナ禍の3年、人々が読書に戻る傾向があったところ上昇傾向にありました。けれども、コロナへの対応が変わった今年は元に戻り、またもや右肩下がりの傾向です。急速なデジタル化 会議・イベントのネット開催も一般化する中でも、小説はコロナ禍の問題を確かに掬い上げていくものです。小説は人の想像力の源泉であることを改めて確認します。そして、厳しい出版業界にあって、今年も新しい書き手を世に出せることは出版社にとって喜びです。」とおっしゃいました。

6月19日は太宰治の誕生日であり、ご遺体が発見された桜桃忌でもあります。
三鷹市が筑摩書房の皆様との協働で、太宰治賞を継続できていることの意義を再確認した夜でした。

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