杏林大学の渡邊卓学長と中教審で検討中の【高等教育の在り方】について面談しました
私が客員教授を務めている杏林大学の渡邊卓学長と対話しました。
この日、私は、委員として8月に出席した、文部科学省中央教育審議会総会で報告された、大学分科会高等教育の在り方に関する特別部会の【急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について(中間まとめ)】について、学長に情報提供し、意見交換をしました。
本特別部会では、昨年9月の文部科学大臣からの【急速な少子化が進む中での将来社会を見据えた高等教育の在り方】についての諮問に応えるべく、熱心な審議が行われています。
【中間まとめ】では、【今後の高等教育の目指すべき姿】として、【我が国の「知の総和」の維持・向上】がまず、掲げられています。
すなわち、「未来を担う若者が新しい価値を創造し、人類が直面する課題の解決に貢献するとともに、地域社会の持続的な発展を担っていくためにも、【知の総和】(数×能力)を維持・向上することが必須であり、高等教育機関は、未来を担う人材の育成や、社会の新たな価値の創出に欠かせない役割を果たしており、教育と研究の機能をこれまで以上に強化することによって社会に貢献しながら、「知の総和」を維持・向上する中心的な役割を果たす」と、明記しています。
高等教育の政策の目的については、以下の3つの視点で整理しています。
「質」:教育研究の質の向上
「規模」:社会的に適切な規模の高等教育機会の供給
「アクセス」:地理的又は社会経済的な観点からのアクセス確保による高等教育の機会均等の実現
そして、これら3つの目的を、バランスよく、かつ効果的に達成するための制度及び資源配分の在り方を検討することが重要としています。
その上で、教育研究体制の充実、高等教育を支える基盤の強化や高等教育機関あるいはそれ以外の機関との接続・連携等を図っていくために【重視すべき観点】として、以下の8項目を挙げています。
①新たな時代に対応した教育内容の改善(文理横断・文理融合教育の推進/成長分野を創出・けん引する人材の育成)
②流動性に支えられた多様性の確保(学生や教員等の多様性・流動性の確保/高等教育機関の多様性の確保)
③高等教育の国際化の推進
④国際競争の中での研究力の強化
⑤学生への経済的支援の充実
⑥デジタル化の推進(教学面:VRやARを活用した新しい学修体験 経営面:DXによる生産性向上)
⑦高等教育機関の運営基盤の確立(ガバナンス改革、自主性・自律性の向上、人的・物的両面での環境整備)
⑧高等教育機関を取り巻く組織・環境との接続の強化
(初等中等教育との接続の強化/社会との接続及び連携の強化/地域との連携の推進)
この日、渡邊学長とは、特に、今後18歳人口が減少する中で、大学の機能として期待される【リカレント教育】【リスキリング教育】の意義や課題についても、対話しました。
渡邊学長のお話で印象的であったのは、学長の専攻が【臨床検査医学】であることからのご意見です。
仮に、臨床検査の専門職の養成過程において複数の専攻を学ぶことや、1つの専門性を取得した者が、後に別の臨床検査の専門性をリスキリングしようとする際、実は学修者の年齢や職歴との関係が重要であると言われました。
すなわち、1つひとつの専門性が深くなっているので、学習者が他の専門を身につけようとする際に、新規領域に対応できる柔軟性も問われることがあり、その際、年齢が1つの目安となるようです。
すなわち、仮に複数の医療に関する臨床検査に関する専門性を身につける場合には、30代前半までの学修に有効性が高く、高年齢になると対応に困難が見られるとのことです。
私が委員を務めている大学分科会法科大学院等特別委員会では、法学専攻でなかったり、法曹以外の職種で働いていた人、いわゆる【法学未修者】の司法での活躍が期待されており、その増加のための入試やカリキュラムの工夫もされていて、一定の成果が出ています。とはいえ、高年齢の挑戦は必ずしも多くはなく、やはり20代、30代までの学生が大半と言えます。
そこで、【リカレント教育】についても、社会科学や人文科学の場合、理工系の場合など専門性と年齢や職業経験との関係についての丁寧な検討が必要かもしれません。
リカレント教育・リスキリングについては、専門によって適切な学修を行えるタイミングや、そのための条件整備の多様性がある可能性があることから、その学修者を支援する制度の在り方についてもさらなる検討が必要であることを確認しました。
杏林大学は、医学部、保健学部、総合政策学部、外国語学部が設置されている総合大学です。
学際的学びが重視される時代にあって、総合大学の強みを発揮することが期待されていると思います。